言い訳すらさせてくれなかった美鶴に、激しい苛立ちを感じる。
このまま、仲違いをしたまま、夏休みが終わるまでどうしようもないのか?
だが夏休みは、まだ二週間以上もある。
休みが終わって学校で再会した時、果たして美鶴は、どのような表情を瑠駆真へ向けるのだろうか?
「私に部屋を貸して自己満足して、私の成績を落としてバカにして、そうやって楽しんでるんでしょう?」
そんな冷たい目で、僕を見ないでくれっ
どうして君は、そんな佞悪な人間になってしまったんだ。
まるで昔の僕のような―――
臆病な瑠駆真が、腹の底から目覚めてくる。
なす術を見つけられない己に対する不甲斐なさ。それをエサとするように、ムクムクと何かが身を持ち上げる。
逢いたい
ギュッと布団を握る。
逢いたいよ
今すぐ逢いに行って、抱きしめたい。
下町の古びたアパートの一室で、または雲行きの怪しい放課後の駅舎で、この腕に閉じ込めた彼女は細く、でも暖かかった。
彼女の意思に反する行動だと理解しながら、ひどい安堵を感じた。
特に駅舎で彼女に触れていた時、瑠駆真は生まれて初めて、色気というモノを感じた。
美鶴のことを可愛いとか、好きだとか思ったことはあったけど、あれほどゾクゾクしたことはなかった。
自分の唇が彼女の項に触れるたび、全身が腫れるような感覚。ひどく火照って、熱でもあるのではないかと錯覚する。
後から思い返して、なぜあんなコトをしてしまったのかと少し動揺する一方、それほど悪いことをしたという罪悪感はない。
むしろ、もっともっと抱きしめていたかったのにという欲求不満すら残っている。
もしあれが駅舎なんかじゃなくって、僕の部屋でだったりしたら、あのままベッドとかに押し倒してしまっていたのだろうか?
僕が、美鶴を?
お前に、できるわけないだろっ!
誰かが笑う。
お前のような意気地なしに、そんなコトができるものか。
両手で耳を押さえる。
いやだっ! 僕は変わるんだっ!
それなのに、下卑た存在が瑠駆真を笑う。
美鶴。
このまま君が離れていってしまったら、僕はまた、昔の自分に戻ってしまう。
僕は変わる。君も変える。
必ず君を、戻してみせる。
そう決意した瑠駆真の足を、何者かがズルリと引っ張る。そんな気がする。
ゾっと両足を抱え込む。
何者かが腕を伸ばし、仄暗い地の底へ瑠駆真を引き摺り込もうとしている。
僕を突き放さないでくれ。僕から離れていかないでくれ。
僕には君が、必要なんだ。
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